一夜限りのシンガー
憧れてた。
煌びやかな、そんなステージに立て歌っている君に。
沢山のスポットライトを浴びて
沢山の観客の目線の中。
堂々としていて凛としていて。
裏方の私はスポットライトにも観客の目線にも映ることなく。
ただただ、毎日掃除をしたりする。
それだけ。
だから誰もいないステージで、もちろんスポットライトもなければ観客たちは帰宅した後だから見ている人なんていない。と
そう思って勇気を出して箒をマイク代わりに自分の歌に合わせてタップダンス。
唯一私に許されている行為はこれだと思う。
誰もいないからこそ思い切り思うままに歌える。
歌を歌えるの。
とても心地よくて幸せな時間。
その日はいつも通り裏方の仕事をしようとしていたところだった。
でも、なぜ今私がステージに立っているの?
大勢の観客の前でスポットライトを浴びて。
困惑
コソコソと聞こえる、
「あの子に歌えるわけがない」
あの声は普段ステージに立っている少女の声。
最初はイジメかな、って思った。
でも普段踊って歌って、そうしていることだけで
裏方でも全然気にしないくらいには幸せだった。
唾を飲み込む。
詠う うたう 歌う
息を吸う
そして歌う
観客はもちろん、わたしを小ばかにしていた人たちだって、
普段歌っているあの子でさえ、
驚愕
心地いい 心地いい
たのしい 楽しい
そんな時間もあっという間に終わる
でも、一夜限りでも幸せだったわ